中国地方 秘境のの山巡り (車中泊の旅)

                                        




 現代社会に生きる人間はどうしてもストレスからバランスを崩してしまいがちである。だからたまには海や山に籠もり、そのバランスを調整する必要がある。こういった内容の本を以前読んだことがあった。

 さて、盆ももう過ぎたが、今年の私の夏季休暇はこれからである。考えようによっては世間の喧噪が落ち着いた絶好のチャンスである。ということで、今回の車中泊の旅は「山籠もり」をテーマにすることにする。奥深い山といえば・・・。ふと頭をよぎったのが比婆山である。私の年代の人間なら、「ヒバゴン」の名前を聞いたことがない者はまずいないだろう。ネッシー、UFO、ツチノコ等と同様で、ヒバゴンという謎の巨大生物が比婆山にいると言われていた。また「もののけ姫」の「シシ神の森」も比婆山がモデルではないかとも言われている。というわけで、今回の旅は比婆山を目的地とした。


ヒバゴン。ちょっとイメージが違うが。


 事前にネットで調べたら、中国地方に比婆山は2ヶ所あるようだ。一つが島根県安来市、もう一つが広島県庄原市にある。ところがどちらもイザナミノミコトを葬った地ということでは共通している。まあ「元祖」と「本家」の違いのようなものか(笑)?。
山自体の規模や標高はかなり違うので、どうやら「ヒバゴン」は広島の方だと思われるが、この際両方訪れることにする。


 まずは島根県の比婆山を訪れる。奥深い山というよりも、里山といった雰囲気である。かつては交通の便が悪いところだったと想像されるが、今は車にとってはとっても快適な道が続いている。鳥居の脇に車を止めて、比婆山久米神社を参拝する。賽銭箱の横にはお札が置いてあり、自由に持ち帰ってくださいとのことなので、有り難くいただく。観光地化された京都や奈良の神社仏閣とは大違いだ。

 だがよく見ると2枚のお札がある。1つはこの神社、そしてもう1つは奥の宮のお札である。すでにもらってしまったからには、いまさら行かないわけにもいかないだろう。ということで、奥の院への登山口へ向かう。標識には1000メートルと書いてあった。

島根県の比婆山

比婆山久米神社



 たかが1000メートルぐらい楽勝や!と思って登り出すが、これが結構きつい。中にはクサリ場もあるぐらいで、道もあまり整備されていない。なにより前にも後ろにも誰もいない。だんだん心細くなってくる。もう止めようと思ったそのとき、よりによってが出現したのである。渓流釣りが大好きな私だが、蛇だけは大の苦手である。釣り仲間にも「弱虫、あかんたれ」と言われるが、こればっかりはどうしようもない。

 まあ細くてちっちゃい蛇でマムシではなかったが、それが草むらに入っていくのではなく、私が進む方向に飛んでいくのだ。いま「飛んでいく」と表現したが、まさにそんなスピードだった。ほとんど蛇行しないで真っ直ぐなまま、スーッと進んでいく。嫌いなはずなのに思わず後をつけてしまった。そしてそのスピードは変わらない。どんどんどんどん、道に沿って進んでいく。横の草むらにでも入り込めばいいのに、なぜか人間が歩く道を飛んでいく。そしてなぜか私もついていく・・・。

 しばらくするとその蛇はサッと草むらに消えていった。そしてふと目を上げるとそこは開けた場所になっていて、目の前には比婆山久米神社奥の院の鳥居が立っていた・・・。なんとも不思議な体験である。蛇に導かれてたどり着いたのである。ここには天然記念物に指定されている陰陽竹が自生していた。竹と笹の混じったような特性を持つ珍しい植物で、ここにしか無いそうだ。また霊石といわれる玉抱石もあった。そしてその奥にイザナミノミコトの御神陵があり、非常に厳かな空気が漂っていた。

奥の宮への登山道

比婆山久米神社奥の宮の鳥居

玉抱石

イザナミノミコトの御神陵




 次に向かうは、広島県の比婆山である。奥出雲をさまよい、酒蔵交流館で一服する。甘酒ソフトを食べて元気回復、亀嵩駅で蕎麦を食べて腹ごしらえをする。ここはテレビなどでもよく知られているらしく、なんと駅舎が蕎麦屋なのである。出雲蕎麦は黒っぽいのが特徴だが、これは皮も一緒に挽くからだそうで、見た目は黒いが香りも味も抜群である。ここでとろろ蕎麦をいただいた。

亀嵩駅

おいしかったよ。

思わず笑ってしまいました。



 そしておろちループを越えて、比婆山温泉の近くからいよいよ比婆山に入る。しばらく進むと、熊野神社に到着した。ここに祀ってあるのがイザナミノミコトである。参道を進むと巨大な杉の木群に圧倒される。伊勢神宮も顔負けといってもいいぐらいの巨木が林立する。やはりシシ神の森である。

 参拝を終えてから、更に山奥へと車を進める。渓流沿いの爽快な山道である。ひょっとしたらイワナの亜種の「ゴギ」がいるかもしれない。思わず竿を出そうかなと思ったが、ここは聖域である。罰当たりなことをしてはいけないので、釣りをしたい気持ちは抑えて山頂へ向かう。そしてついにどん詰まりの駐車場へたどり着いた。ここはブナの純林である。本当ならここから登っていけばいいのだが、装備も十分ではなく、熊出没のおそれもあり蜂がブンブン飛び交っていたので、残念ながらここまでとしておく。それにしても全く誰にも出会わないというのはどういうことだろうか。

杉の巨木群

シシ神の森みたい・・・。

天狗がいそうな巨木



 さて、今晩のお宿はどこにしようか。本来ならこの山中で野宿するのが一番自然のパワーを吸収できるに違いない。だが時間的にまだまだお天道さんは高いところにいらっしゃる。もう少し足を伸ばそうと車を走らせる。愛車デンデン君(エブリィ)は絶好調である。今回のもう一つの目的地「吉田郡山城」を目指す。今日中に近くまで走っておいて、明日の朝からこの山城を登るのが最も効率的だろうと思い、今夜のお宿を探す。スマホで探したところ、絶好の宿泊地がありました! その名は「たかみや湯の森」である。温泉施設なのに、その駐車場は車中泊可能とあり、おまけにレストランも併設しているらしい。これは快適な夜になりそうだ。


 そこはとってもきれいな施設で、今日の登山で疲れた足腰をゆっくり伸ばすことができた。そして夕食は唐揚げ定食にする。駐車場がお宿だから、アルコールもOKである。まずは生ビールをグビッ! 美味い! 湯上がりに唐揚げと枝豆、そしてアジの南蛮漬けで最高のひとときを過ごす。その後は芋焼酎のロック。至福のひとときである。店員のお姉さんも愛想が良く、とても気分がいい。そしてなんとこの施設は再入浴可能で、酔った体をゆっくり湯に浸らせ、その後は休憩所でゴロンと寝ころぶ。いやあ、幸せ幸せ・・・。やっぱり山や海の自然のパワーよりも、「幸福」「口福」(笑) かもしれない。 この日の夜は車内で爆睡する。

お世話になった「たかみや湯の森」

口福・・・・。



 翌朝、夜明けとともに爽快に目覚める。8月とはいえもう盆も過ぎると秋の気配が感じられる。うっすらと山霧が漂っていた。さすが中国山脈の中央部である。近くの道の駅で顔を洗い、そこに併設されているコンビニで朝食を済ませる。最近のコンビニは喫茶店顔負けのコーヒーがあり、それにサンドイッチでもあれば立派な朝食になる。旅先の屋外で飲むコーヒーはうまい。


 吉田郡山城跡に着いたのは、8時半頃であった。この城を拠点に毛利元就が中国地方の覇者に登りつめたのである。何年か前の大河ドラマで放映されていたが、中国地方の弱小国人に過ぎなかった元就が、知略、謀略を駆使して中国王になったその舞台である。「百万一心」「三矢の訓」など、エピソードとして残っている逸話も多い。歴史民族博物館に車をとめて、散策することにした。

 あちこちにガイドマップが設置されているので、非常に便利である。まずは元就の銅像、火葬の地からはじまり、隆元、一族、そして元就の墓地、百万一心の碑、そしてそこから山登り。よくもまあ、ここまで山を要塞化したものだ。尾根を切り開き、堀切や曲輪を作り、そこに兵や武器、食料を備えたら、ちょっとやそっとでこの城は落ちるはずはない。これを落城させるのは、ほんと至難の業であろう。事実尼子の3万の大軍を、僅か2500の軍勢で撤退させたのは、元就の知略とこの城のおかげであろう。まあその頃は、ここまで大々的に整備してはいなかったかもしれないが。

 すべてを巡り博物館に戻ってきたときは、既に3時間を越えていた。その間誰にも会うことが無く、一人で山城を散策したので、思う存分じっくりと見学することができた。いやぁ、満足満足。一人で山のエネルギーを思いっきり吸い込んできたので、きっと心身のバランスもきれいにリセットされたに違いない。

毛利元就の像

百万一心。 「一日 一力 一心」とも言われる

三矢の訓


郡山城全景

今から本丸へ向かいます。

ひとり山頂へ。

やっと本丸に着きました。

清神社(すがじんじゃ)

頑張ってくれたデンデン君



 このあと、高速道路を走るのは我が愛車デンデン君は不得意なので、下道をぶらぶらのんびり、自宅へ向かうことにする。というか、ほんとは高速乗っても楽しくないんよね。見知らぬ土地を、気分に任せて立ち寄ったり食べ歩いたり・・・。そんな旅の相棒にはデンデン君が最高のパートナーである。ちなみにデンデン君というのは、「でんでん虫」から来ている。カタツムリのようにのろく、そして家を伴いながら動いている。そんなイメージである。途中で買った乳団子、くるみ饅頭、山いも饅頭、ゆずりは餅。途中で食べた数々のソフトクリーム、うどん、蕎麦、牛飯・・・。  あ〜旅してるなあ。                      (2016.08.31)

 



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