もうすぐ世界遺産? 三徳山三佛寺『投入堂』


 少し前のことではあるが、5月5日の子供の日に、長男と鳥取県にある国宝三徳山三佛寺投入堂に参拝してきた。というか、実質は登ってきた。というのはここは日本で最も危険な場所に設置されているお堂で、伝説によると法力によって岩窟にお堂を投げ入れたとされている。そしてそこに至る道のりは、あるところは四つんばいになっての木の根坂クサリ坂であり、またあるところは馬の背・牛の背といわれる左右絶壁の尾根づたいの道である。そしてその装束は厳重にチェックされ、木の根を傷めず、かつ滑らない履き物を装備してない場合は、わら草履を購入して装着することを義務づけられる。なんともまあ、厳しいところだ。というのも、かつては修験道の行場であり、生半可な気持ちでは入山すると危険ですらある。事実前日には、ヘリコプターによる救助活動が行われたということである。さて、身も心も引き締めて登るとするか・・・。

国宝 投入堂 (遠景)

三徳山 マップ



 実は私は20年以上前に、この山を登ったことがある。それも長男を背中にくくりつけて。一歳ちょっとの、まだろくに歩けない息子を背負っての参拝である。その息子ももうすぐ二十四歳、今は社会人として仕事をしている。月日の経つのは早いものだ。今はもちろんオンブどころか私よりはるかに体力を持っており、いざというときには私の方が足手まといになるかも知れないが、まだまだ息子に負けるわけにはいかない。二人揃って入山する。


 世間はやはりGW、こんな山の中なのに、訪れる人は数多い。新緑が美しく天気もよくて、絶好の登山日和である。まずは入山料を払って届けを出し、タスキ(輪袈裟)をもらってまずはゆっくりと登り始める。少し登るといきなりの木の根坂である。軍手を忘れてきたのを後悔したが、もう手遅れである。素手で根っこや枝を掴みながら、順路に従って登っていく。といっても、いったいどこが順路なのか、どう見ても納得がいかないが、前を歩く人に付いていきながら崖を登っていく。

藁草履で準備完了.!

輪袈裟

木の根坂

岩場をたどる

四つん這いで登る



 しばらく進むと今度は岩場に遭遇するが、右が登り左が下りに別れて、が張ってある。とはいっても鎖なんてほんの気休めであって、決してそんな鎖程度に命を預けるわけにはいかない。慎重にバランスを保ちながら登っていく。登り切るとそこには文殊堂が現れる。よくぞまあこんな所にお堂を建てたものだ。そのお堂の縁側を裸足でぐるっと回ってみるが、崖っぷちに立てられたお堂からせりだした縁側を歩くのには、少々勇気がいる。そこからの景色は絶景ではあるものの、もし誤って落ちたら、痛いでは済まないだろう。なかにはのんびり休憩している人もいるが、後から来た者にとっては障害物以外の何物でもない。「ごめんやっしゃ!」と言いながら狭い縁側を恐る恐る歩く。その中に、脚を下にブラブラさせて座っているカップルがいた.。おそらくそこから落ちたとき、自分がどのような状況になっているかを全く想像できないスカポンタンだと思われるが、思わず後ろから蹴飛ばしてやろうかという気になった。きっと見事に宙を舞って、とんぶり返るであろう。そんな馬鹿げたことを、こともあろうに知恵の神様を祀ってある文殊堂で想像していた。なんともまあ、聖地にふさわしくない邪悪な考えであることか・・・。我ながら我自身に呆れてしまう。そういえば麓の道は「洗心の道」と書かれてあった。私にとっては、まだまだほど遠い世界である。

クサリ坂

順路に従って登る

おそろしや・・・



 その後、同様に地蔵堂を参拝したあと、鐘楼堂に到着する。というか、鐘突の順番を待つ行列の最後尾にたどり着いた。さすがGWである。こんな山中で行列ができるとは・・・。そしてやっと私の番になり、願いを込めて勢いよく鐘を突く。その厳かな音が山々に響き渡る・・・。合掌。次に息子が私に負けまいと思ったのか、より一層の勢いを加えて鐘を突く。ところがである。この馬鹿力の長男は、中高大と柔道一筋で鍛えてきたせいか、なんと釣り鐘を突く棒についているヒモを取ってしまったのである。さてどうするべきか? 呆然としている息子を見捨てるわけにはいかず、手助けをする。何か部品が取れてしまったのか? でもそういう形跡はないし、金属片が落ちた音もしていない。ヒモ自体が切れたわけではなく、接続部分がはずれたとしか考えられない。さてどうしたものか・・・。後に続く行列の人々は不安そうに見守っている。「壊れたから終了!」というべきか、なんとか直すべきか・・・。接続の金具をああでもないこうでもないといじくり回していたところ、ふと知恵の輪と同じ発想のイメージが沸いて出たのである。先ほど智恵の神様の文殊堂で罰当たりなことを考えたにもかかわらず、その智恵の神様が授けてくださったに違いない。鎖の一部を入れてクルッと回して引っ張ると、見事に何事もなかったかのように元通りになったのである。「やった、直った!」と思わず声が出てしまったが、それを聞いた後続の人々からは拍手が湧いた。念のため次の人が突くのを見守っていたところ、突いた人は「大丈夫ですよ〜直ってました!」と声を掛けてくれた。なんともまあ気持ちがスッキリした瞬間であった。

絶壁に立つ文殊堂

鐘楼堂

馬の背にて



 次は「馬の背」「牛の背」を通過することになる。どちらも左右が険しく切り立った尾根で、ふざけて転がり落ちたら、かなり下方まで止まることはないだろう。緊張しながらそこを通り過ぎ、いよいよ最終のゴールである国宝投入堂を目指す。観音堂や不動堂などいくつかの建物が我らを待ち受け、それを越えたところについに姿を現した。いくら見ても見飽きないその姿は、どうやって建てたのかという最大の疑問はもちろん頭から離れないが、それ以上に何とも美しい建築物だなあという気持ちの方が強かった。建築の美というのは、まさにこういうものをいうのだろうか。ギリギリの環境に絶妙のバランスを保ち、時空を超えたかのような存在感。信仰の対象というより美術品への愛とでもいうべき感覚であった。

投入堂

どうやって建てたのだろう?



 帰りはもと来た道を順路に従って戻るが、下りに改めて見てみると、よくもまああんな道を登ってきたものだと我ながら感心する。先ほどの鐘楼堂のヒモも健在であった。三佛字寺本堂まで下山して、藁草履を脱いで足をよく洗う。心地よい疲労感である。その後、三朝温泉株湯の熱い湯につかり、身も心もスッキリ洗い流す・・・。なのにその後、三朝のお好み焼き屋で牛すじ入りのそばめしを喰らう。美味い。本当は身も心も清め、その後は山菜料理などの精進料理で締めくくれば完璧なのだが、何歳になってもそうはなりきれない煩悩だらけの私がそこにいた・・・。笑

三朝温泉 株湯

牛スジ入りそばめし



                                                                        (2018・0609)
 



 

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