秋晴れの空に明日を見た・・・

(丹波の秘湯 篭の坊温泉)


 今年は凄まじい台風ラッシュだった。 おまけに中越地震も重なり、日本列島のあちこちに深い爪痕を残した。私が住んでいる兵庫県南東部もその例外ではなく、近くにある武田尾温泉も武庫川の氾濫によって橋が流されいまだに何軒かの宿は営業が再開されてないと聞く。今回のコースはその生々しい傷跡を実際に自分の目で確かめ、そしてもし可能ならば入浴させてもらって、たとえわずかでも金を落としてこようというのが主たる目的である。


 この日は水曜日、なぜか休みである。まあその辺の事情はさておき、せっかくの休日なのだから、秋の丹波路を堪能しようと愛車TR250のエンジンに火を入れる。近場なのでカメラと温泉用具ぐらいしか持たずに出発する。まずは武田尾温泉を目指す。ここは明治時代は有馬温泉と並び、摂津の温泉郷として栄えたそうだが、今はわずか数件が残っているだけで、秘境の温泉といったイメージが強い。JR宝塚線の武田尾駅を降りたらすぐという交通の便は最高の立地なのに、今はあまり栄えている雰囲気はない。かつてこの宝塚線(福知山線)が複線電化されるまでは、宝塚から武庫川沿いの渓谷に沿って延々と列車の旅を余儀なくさせられたのであるが、それはそれで風情があった。 ところが現在はそのほとんどがトンネルになっており、時間は大幅に短縮されたものの、旅情というものは完璧に消え去ってしまった。それによってその先の三田市や篠山市が観光地からベッドタウン化したのは、やむをえない時代の流れの結果なのだろう。だから武田尾温泉の現在の状況も、これもまた時代の流れの結果なのだろうといったようなことを考えていたら、もう到着してしまった。


 行って唖然としたのは、橋がないことである。無惨にも流され、左岸に押し寄せられていた。そして周りを見たら自分の今いるところより高いところの崖に、ビニール袋やなんやかやのゴミがへばりついている。あきらかに押し寄せた水が、今の自分のいる場所よりもはるかに高くまであふれていたことを物語っていた。そして本来そこにあったはずと思われる建物が、無惨にも全壊していた。 ここはもともと紅葉の名所である。旅館は営業を停止していたが、そこにある紅葉は以前とかわらずに真っ赤だったのが印象的であった。

ここからあの橋が架かっていた・・・・。 あきらかにこの道は水没していた・・・・。


 そこから北上し、丹波の秘湯である篭の坊温泉へと向かう。ここはもともと平家の落人が傷を癒したとされる温泉で、あまり標高は高くはないが奥深い山地といったイメージのところである。そしてオオサンショウウオやアメノウオ(アマゴ)の自生地とされている。もっとも昔の話であって、今はもう天然アマゴはいそうにないと思うが・・・。またここは丹波の名産「猪肉」を出してくれるということで、知る人ぞ知るといった温泉である。またこの地からわき出る水を利用して、有名な清涼飲料水の原料に使用したとのことである。だが、ここも平成の不況をもろに受けたのか、あちこちの旅館が閉鎖状態で、まともに営業しているのは2軒ほどか・・・。


 その温泉地の手前の橋の上で、アメノウオがいないかなあとバイクを止めてのぞき込んでいたところ、前から一台のヤマハメイトに乗ったおじいさんがやってきた。CD90に乗って以来、なぜかビジネスバイクに親近感を感じてはいたが、そのおじいさんが話しかけてきた。「このあたりでどこか綺麗な紅葉はなかったか?」と尋ねられたのだが、それはこっちが今回探し求めているものであって、逆にこっちの方が地元のおじいさんに尋ねたい質問である。だがよく聞いてみるうちに、「地元のおじいさん」と思ったのは私の勝手な判断であって、実はこのおじいちゃん、わざわざ尼崎から50ccのヤマハメイトを駆って、こんな山奥まで紅葉を見に来たのである。人生の大先輩であると同時に、単車乗りとしても偉大なる先輩である。果たして私が30年後、そのような体力と気力が残っているかは、はなはだ疑問である。可能であるならば、あのようなじいちゃんになりたいものである。


 その後、そのじいちゃんと別れ、温泉に浸かることにする。一軒が「昼食セットで2名以上入浴可」というセコい商売をやっているので、ここはパス、というか一人旅なので相手にしてもらえないだろう。でもまあ、自分からパスしてやったことにする。もう一軒が渓山荘というところで、ここは800円で入浴させてくれた。設備面においても特筆すべきものはない旅館だが、こぢんまりして古いわりにはきっちり手入れされており、露天風呂も巨大な御影石で作った立派なもので、幸い客は私1人だったので女風呂も男風呂も見学させてもらい、あれこれと写真を撮りながらゆったりと入浴する。露天風呂から眺めた空は真っ青で、そこにある鮮やかな紅葉と絶妙なコントラストを醸しだしていた。ああ愉快、愉快・・・・・。お湯はサラッとした感じで、特に温泉の効能を感じるといったものではなかったが、平日の真っ昼間、誰もいない山奥で温泉につかる・・・・。いいねえ、最高でした。

石でできた露天風呂 の〜んびり、ゆったり・・・。


 風呂上がりの後、その旅館の経営者のおじいさんと話し込む。あごひげをたくわえた仙人のような風貌のご主人である。いろいろと世間話をしているうちに、天然物のアメノウオの話に発展し、釣り談義になってしまった。このご主人はメバルを求めてあちこちの海を訪れているらしい。メバルという魚も釣って楽しいし、食べても最高にうまい。特に煮付けなどは絶品である。このおじいさんが言うには、まるでテンカラ同様のシンプルきわまりない仕掛けにエサをつけて、海に立ち込んで釣るとのことである。メバルはつい先ほどまで干潮で干上がっていたところでも、潮が満ちてくればバンバン釣れるそうである。もちろんそれもその習性に従って、いかに食わすかというところに絶妙なテクニックが必要らしいが、これも相当奥深い釣りのようである。そして「釣れた」のではなく「釣った」ことがてきめんに実感としてあらわれる釣りらしい。「撒き餌をして食わせるのは当たり前。いかに相手の習性を把握して食わせるかが釣りだ。」という言葉が耳に残った・・・・。30年後には、私もそのような心境に至っているのだろうか? ただこの釣りはもっぱら夜にするそうなので、体力がなければできないとのことである。そして昔ほどではないそうだが、今でも現役の釣り師として、このおじいちゃんも頑張っているとのことである。 その後、篠山市内をぶらぶらと散策して、栗やら山芋といった丹波の山の幸を土産に買って帰宅する。

露天風呂から眺めた空


 今回の旅は近場であり、そして何度も訪れたところだから新鮮味はない。だが初めて篭の坊温泉につかることもできたし、いろいろな出会いもあった。まるで30年後の自分を見たような気がすると同時に、そうなるためにはたえず毎日を好奇心で満たして生きなければならないと再認識させてもらったような気もする。 そして何よりも大切なのは健康だということも実感した。さ〜て今日は温泉にもつかったことだし昼飯にうまいもんも食ってきたことだし、あとはぐっすり眠ろうか。さっそく健康に向けての実践である。おっとその前に、適度にアルコールを入れた方が、よりぐっすり眠れるだろうと缶ビールをあける。 飲まないのが健康にいいのか、飲めるから健康なのか・・・・? 難しい問題である。

                                                 (2004. 11. 17)


               



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