中世の美意識とは?

(吉野・龍神方面へ)




 鎌倉時代の末期、兼好法師により「徒然草」が書かれた。日本の随筆文学の代表で、隠者文学としても有名である。その中に次のような内容の文章がある。

 「花は盛りに、月はくまなきをのみ見るものかは。雨に向かひて月を恋ひ、たれこめて春の行方知らぬ も、なほあはれに情け深し。咲きぬべきほどの梢、散りしをれたる庭などこそ、見どころ多けれ。

 (桜の花は満開のときだけ、月はでんでん曇りのない満月のときだけを見るものでっか? いや、そんなことは
  おまへんで!降りしきる雨を見ながら、あの雨雲の向こうにええ月があるんやろなあと恋しく思たり、部屋ん中に  
  おって、知らん間に春が過ぎてしもたんにも気づかんのも、やっぱそれもしみじみとええもんやで!せやからもう  
  今にも咲くで〜!ちゅう枝や、もう花が散ってもて花びらがいっぱいになった庭なんかのほうが見どころ多いんや
  で!)


という風に関西弁で言ったかどうかは知らないが、そのような内容の文章を残している。 さらには、特に風流心のない人に限って、「この枝もあの枝も、もう散ってしまった。今はもう見る価値はないなどと言うようだ」と述べている。


 さて今回のツーリングコースは、日本一の桜の名所、奈良県の吉野に決定した。 ただ今回設定した日時はほとんど桜が散ってしまった時期である。これは上記の中世の美意識を確認するために、わざわざこのときを選んだのである・・・・。なんてウソでもいいから一度は言ってみたい(笑)。 本当のところはただ単にその日しか都合がつかなかったということにほかならなくて、それまでの休日は、仰せつけられた子守業務をせっせとこなしておりました・・・・。



 当日9時に六甲アイランドにてF氏と待ち合わす。久々のツーリングである。この冬は何となくダラダラと寒さが長引き、いざその気になった途端に寒波がやってくるといった繰り返しであった。そのためなかなかツーリングクラブ「男神」の活動をやりそびれていたのである。


 今回は高速道路を使ったコースを設定した。CD90はいいバイクであったが、やはり小型には高速道路が使用できないという決定的な弱点があった。私は高速道路を走るのは好きではない。だから本来なら小型で十分なのだが、いざというときに高速を使えるか使えないかの違いは、やはり相当大きい。 そういった意味では、長い間、小型につきあわせたF氏には申し訳なく思うが、まああまり気にしてないようだ。今回はその呪縛から解き放たれたかのように高速走行を楽しもうと思う。


 阪神高速湾岸線を快調にとばす。海の上だから少々風はきついものの、颯爽とした気分になる。とちゅうUSJ海遊館を横目に見ながら、堺の大浜ICを目指す。愛車のバイソン君(kawasaki250tr)も順調そのものである。ただ先日、この日を見越して洗車して整備して、オイル交換して試運転をしたところ、山の中でいきなり後輪がパンクして大変な苦労をした。偶然とはいえ、なんちゅうタイミングや! と、腹立たしくなった。ひょっとしたらこいつも持ち主に似てへそ曲がりの天の邪鬼かもしれない・・・。

 大浜ICからは国道310号線を南下する。狭山市や河内長野市を通過して奈良県の五條市へ向かったが、大阪府内ではゴミゴミした道で意外に時間をとられ、奈良県側ではこれがホンマに国道かいな?と言いたくなるような狭い道なのに、看板だけは一丁前に「五條方面・国道310号線」と頻繁に出ている。 やはり3桁の国道、特に300番台や400番台の国道は十分気をつけなければいけない。ただ県境の峠から見た奈良県側の光景は壮大であった。


 五條から吉野へは思ったよりも距離があり、看板を見ながら道なりに進んでいく。シーズン終盤とはいえ、観光客が非常に多い土地柄か、看板通りに行くとすんなりとたどりついた。 吉野は下千本中千本上千本奥千本といったふうに、それぞれが時期がずれて満開となるために、トータルではかなりの長い期間桜が楽しめる。ただこのときはもうすでにほとんどが葉桜になっており、奥千本にかろうじて残っているとのことである。途中、もう桜のない中千本あたりに風情のある茶店などもあったが、ひたすら奥千本をめざして山道を駆け上る。そしてついに突き当たりと思われる神社にたどりつき、そこでバイクを止める。その神社は金峯神社といい、なんと今をときめく源義経にもゆかりがある社ということである。その左側にある社は義経隠れ塔といい、頼朝の追討を受けた義経が隠れた場所で、追っ手に追われたとき、屋根を蹴破ってこの場所から脱出したそうである。

金峯神社 義経隠れ塔 奥千本への道
吉野山 奥の千本 西行庵 中世の美?


 その神社を参拝した後、その脇から奥千本をめざして歩く。日頃の運動不足のため、二人ともゼイゼイいいながら、急な上り坂を進む。やや行くと分かれ道があり、まっすぐはただの林道につながるということで、左側の西行庵にむかう。ここからは下り坂だが、しばらく行くとやっと桜が見え始めた。そこはちょっと開けた場所になっており、たくさんの人が最後の桜を愛でていた。弁当を広げている人、ビールを飲んでいる人、団子を・・・。それはなかったかな?まあそれぞれの人がそれぞれのやり方で、過ぎゆく春を惜しんでいた。
 

 う〜ん、これこそが春を惜しむ気持ちなんだろうなあ。去りゆく者は美しい。満開の瞬間がこんなにも短いからこそ、桜は日本人の心をとらえて離さないんだろうね・・・・。

 世の中に 絶えて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし
  (この世の中に桜が全くなかったならば、春の人の心はのどかであるでしょうなぁ)

 というわけで、中世独特の美意識に浸っていた・・・・・。だが本当のところは、やはり満開の方が好きである。そしてやっぱり桜の下ではバーベキューをしてビールを飲んで、どんちゃん騒ぎ・・・・。これに限る!。西行法師の庵の前で、なんとも不謹慎なことを考えていた私であった。なんとなく西行庵の中の西行法師の像が、私を哀れむような表情で見ているような気がしたのは、私の気のせいだったのだろうか?

後醍醐天皇陵
日本唯一の北向きの陵。
遙かかなたの京都を見つめる。




 山から里に下りて、昼食とする。ところがなかなかパッとしたところがない。しばらく走り進むうちに、回転寿司があったのでそこに立ち寄った。ところが回転寿司のくせにカウンターの中にはいけすがあり、中にはタイやヒラメやアジが元気に泳ぎ回っている。そしてどの皿も100円より高く、思わず財布の中身のことを考えてしまう。まだまだ人間的にちっちゃいですなあ、私って・・・(笑)。 アジ一匹まるごと握り寿司にするといったメニューもあり、高級志向の回転寿司のようであった。早速カンパチとサヨリ、そして生タコを頼む。結構いいネタを使っているので、それだけの値打ちはあるようだった。だがいつもはオール100円のところしか行ったことがないので、ちょっとセコくなりながら、寿司をつまんでいた。

 財布と相談しながらも、一応、満腹になったので、出発する。九度山でガソリンを満タンにして、高野山に向けて走り始めた。九度山というのは真田幸村にゆかりのあるところである。歴史にもし、というのはないのだろうけど、もし真田が運良く家康を倒していれば、今の日本は今とは全然違ったものになってただろうなあ、とたわいもないことを考えながらバイクを運転する。というのも狭い道だから、前にとろくさい車が2,3台いればどうしようもない。もう後につくしか他には方法がないのである。そんな車の後を排ガスを浴びながらトロトロついていたのだがやっと山頂に到着した。奥の院はかつてじっくりと見たことがあるので、今回は金剛峰寺の大伽藍にだけを参拝してまた走り出す。朱色も鮮やかな、立派な塔が建てられていた。


 さていよいよ高野龍神スカイラインである。およそ50キロにも及ぶ壮大なスカイラインである。かつて学生だった頃にカワサキのGPZ750で走ったことはあるが、もう20年以上も前のことである。排気量は違うが、同じカワサキのマシンでそのワインディングロードを走ると思うと、昔の熱い血がたぎってくる。まあもちろんその20年間に年齢相応の理性も身につけたと思うのでアホなことはしないが、どうしてもいつもよりアクセルをワイドオープンにしてしまう・・・・。僕もまだ若いなあ。右に左に切り返しながら快適に通過した。そして何より快適な気分にさせるのは、この道が無料開放されたことである。かつてはかなり高額な通行料を取っていたが、それが全く廃止されたのである。つまらん有料道路や高速道路も、これを見習って欲しいものである。護摩壇山で少々休憩して景色を眺めた後、龍神温泉まで走る。

高野山 金剛峰寺 色鮮やかな塔 スカイラインより望む奥深い山々


護摩壇山の休憩所にて


 龍神温泉についたのは4時半である。ビミョーな時間である。温泉に浸かりたいのはもちろんであるが今日は日曜日。当然のことだが明日は月曜日勤務日である。あんまり遅くなったら次の日に差し障るのでは、といった常識的発想を多少は持ち合わせてはいるのだが、快楽を求める気持ちはそれ以上に強く、結果としてゆったりと温泉に浸かってしまった。日本三美人の湯だけあって、ここの泉質は何度入っても感激する。体全体がすべすべになるもんね。こんなにいい湯なら、きっと体の内側もすべすべにしてくれるだろうという単純な発想で、コップになみなみと注いで立て続けに3杯飲み干した。嫌な味など全くない。きっと腹の中も真っ白な美人になったことだろう・・・・と思っておく。まあそれぐらいでは私の腹黒さは浄化されないかもしれないが・・・。



 さて、毎度の事ながら帰途は延々と続く耐久レースである。 先ほどのスカイラインと同じペースで、ガンガンと一般国道をとばす。阪和道路の吉備インターを目指して、2台のバイクとはただひたすら走る。そして阪和道、阪神高速を乗り継ぎ、ただただ走る。もうとっぷりと日が暮れて周りの景色を楽しむこともなく、2人はバイクを操る機械と化して、黙々と走る・・・・。


 ついに終点の六甲アイランドにたどり着いた。そこでF氏と別れて、それぞれの帰路に向かう。別れ際にF氏が言うには、自宅まで帰ったらきっと500キロを超えるだろうとのことである。そういえば私もこの時点で430キロを走っている。帰宅すれば460キロは超えるだろう。今から姫路に帰るF氏はそりゃそうなるに違いない・・・・。


 お互いアホやなあとは言いながらも、また次回はどこに行こうかと、それぞれが頭の中に描きながら家路についたのであった。
                                                 (2005. 4.24)


               

 




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