タチウオとアジ…

                                        




 「次の月曜日、釣り行かへんか?」と悪友からメールが入る。 そりゃもちろん嬉しい誘いには違いないのだが、なんとも恐ろしい気がした。

 そもそも私の職場は土日が休みであって、本来月曜日は出勤日である。だが、たまたまその日は職場の都合により休みであった。これは滅多にないことである。なのにどうして、こいつはそれを知っているのだろうか?そのうえ、こいつの職場もまた、土日が休みである。決して月曜日ではない。これまたいったい、どうなっているのであろうか?

 結論として言えることは、この友人は仕事より釣りを優先しているということと、私に関しては何もかも知り尽くしているということである。

 まあ、そのあたりのいきさつはここでは避けるが、学生の頃から気心を知り尽くした友人というものはこんなものかもしれない。ひょっとしたら、うちの台所事情や夫婦間のことまでも調べ尽くしているのかも…。まことに恐ろしい奴である。 だがその場で「よっしゃ、了解! 行こう!」とメールを返す私も私だが…。

 日曜日の深夜、明石市のとある波止に行く。さすがに日曜の深夜とあって、ほとんど人影はない。先端部分に一人、イカねらいの人がいたが、もう帰り支度をしている。その人が立ち退いたあと、その先端に入った。

 今回のねらいはタチウオである。秋に紀伊半島あたりから瀬戸内にまわってくるのを狙うのだが、今年は昨年と違って好調のようである。ムニエルや塩焼きなど、どうやって食べてもうまい魚だが、とりわけタチウオの刺身は絶品である。なかなか釣ったものでないとそれは味わえない。明日の晩酌はタチウオの刺身で、と頭に思い描きながら、電気ウキを見つめる。それに今回はルアーを持ってきているので、待ちの釣りと攻めの釣りで仕留めてやろうと、気合いだけは十分である。本当なら日没の時合をねらいたかったのだが、まあそれは仕事の都合でしかたがない。そのかわり、今日は朝まで釣ってやるぞと頑張った。

 だが時間はどんどん経っていくのに、まったくアタリはない。3時頃に一度だけ友人の竿にアタリが出たが、結局素針をひいてしまい(ヘタクソやなあ…)、夜明けまでの釣果はゼロだった。タチウオの刺身は夜明けとともに、無惨にも消え去ってしまった…。


 夜明けからの狙いはアジである。まあ、タチウオは駄目でもアジなら釣れるでしょう、ということで当初から予定はしていたが渋々アジ狙いに切り替える。単純なサビキ仕掛けである。 この頃からぽつぽつと、釣り人が増えだした。投げでカレイを狙う者。ハゲかけで挑む者。そしてスズキ狙い…。さまざまな釣り方で、それぞれが楽しんでいる。今日は月曜日なのになんでこんなに多いんだろうと思ってしまう。不景気だからか、逆にそれほどその不景気はたいしたことはないからなのか…。世の中には暇人が、いっぱいいるものである。 まあ、人のこと言えないけどね。
 

        いい天気・平日・釣り…。シアワセ!


 ところがアジもまた全然である。いったい今日はどないなっとんやろ、と思っていた矢先にサビキのポッカンウキにアタリが出る。巻き上げたところ、イワシであった。手で触れると鱗がぼろぼろとはがれ落ち、見るからにイワシである。そういえば今までイワシは釣ったことがない。これまた不思議なことだが、事実そうなのである。

 かつては下魚とされ、卑しい食べ物とされた時代もあったそうだが、それをあの紫式部がこっそりと食べていたという話を聞いたことがある。やはりうまい魚には違いないのである。最近は特に漁獲高が減少し、時によっては鯛以上の値を付けることもあるという。イワシが高級魚という、なんとも似つかわしくない状況が起こっているそうである。そのイワシの群がまわってきたようだ。結構大型のイワシが、ポツポツとではあるが釣れだした。 そのうち強烈なアタリがあり、(といってもイワシに比べれば、ということだが)あげてみると、グレであった。もちろん、まだまだグレというには小さすぎるこっぱグレではあるが、充分に食べられるサイズである。小さいながらも結構強い引きが楽しめた。それも不思議なことに、私の竿だけにかかるのである。つい横で釣っている友人には全くあたらないし、その横で釣っているおじさんにも釣れない。 たまたまサビキの皮が当たっただけのことだと思うが、やはり自然相手であるだけに、不思議なことも多いものだ。

 持ち帰ってから、イワシとグレを、それぞれ別に煮てもらった。イワシはプリプリとしていて丸く、グレはなんともいえない歯ごたえが心地よく、新鮮さが味付けを越えているのが感じられた。さっそく昼間っから一杯やってしまった。


 今回は帰りに明石の名物であるたこ焼き(明石では玉子焼きと呼ぶ)を買って帰ったので、子供も嫁さんも大喜びである。なかにタコが入っているものと、アナゴが入っているものがあり、ちょっと珍しい。このおかげで、子供は釣りに連れて行ってもらえなかった不平を言わなかったし、嫁さんもニコニコ顔である。私は釣った魚で昼酒としゃれこみ、その後は昼寝で爆睡した。嗚呼シアワセ…。

 



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