あるキャンプ場にて




1995年9月21日
      

 岐阜県と長野県の境にある、とあるキャンプ場に2泊3日で行ったときのことである。そのキャンプ場は乗鞍山の中腹の高原に位置し、周りには濁河温泉・乗鞍温泉等があり、あの有名な野麦峠にも近くであった。そのキャンプ場はきれいに整備されており、周囲は美しい白樺林で、いかにも自然の中に遊びに来たなあ、という実感がわくところである。しかし9月とはいえ、かなりの高地にあるので寒くて寒くて、僕たち以外のキャンパーはわずかであった。


 着いた日はテントを設営してからのんびりとしていたが、夕暮れにテントサイトの横にあった釣り堀でそっと竿を出した。もちろんキャンプ場の設備で有料釣り堀なのだが、人がまばらなのと夕暮れで時間が無いのとを理由に、無断で竿を出した。もちろん大それた盗人をするつもりではなく、つれづれなるひとときを、ちょっと楽しもうとしただけである。すぐにあたりが来て、25センチほどのニジマスが釣れた。


 釣り堀の定番の魚である。晩御飯の一品がふえたと喜んでいたが、次々にかかり、4人分のおかずが釣り上げられた。そこでやめるはずだったのだが、何気なくもう1度竿を出すと今度は小さいのが釣れた。ニジマスだと思いこんでいたので何とも思わなかったが、ちょっと色が黒っぽい。ちっちゃくて黒いニジマスだなと思ってたが、なんと岩魚だった。もちろんリリースサイズではあったが、だからこそ、より一層に気になった


 養魚場ならともかく、キャンパー相手の釣り堀に、こんなちっちゃな岩魚を放流するはずがない。そんなちっちゃな赤ちゃんを釣らせて食材にせよというのなら、とんでもなく恐ろしいことである。とすれば、どこかから紛れ込んできたものに違いない。もちろん付近には岩魚の養魚場なんて無い。さすれば、天然物の赤ちゃんとしか考えられなかった。確かにこの釣り堀は、天然の小川を利用して水をたたえている。小さな川が流れ込んでいた。

     
 ということは・・・・・・・。思わず顔がにやついた。この川の上流には天然物の岩魚がいるにちがいない。確かにここは、かなりの標高の高原である。水は身を切るように冷たく、そして上流には人の手が加わったものは何もない。。岩魚がいても決しておかしくはない。


 そうとなれば、釣り師として黙ってみているわけにはいかない。今回同行したメンバーは、釣りには全く縁のない者ばかりであるが、食うことは大好きな連中である。ここはいっちょう、釣り師としての面目で、ニジマスなんて下魚じゃなく(ニジマスさん、ゴメンナサイ)、日本の川の王様である岩魚を食わせてやろうと翌朝の行動を思い描いていた。




  翌朝、夜明けとともに起き出して、釣り堀に流れ込む川を散策する。その結果、この川の本流はテントサイトの裏側を流れていて、その小さな支流をせき止めて池にしていることが判明した。そこでテントサイトの奥へ足を延ばした。

  周囲は白樺林で、下草はわずかである。早朝の凛とした空気の中、何か知らないが小鳥のさえずりが聞こえてくる。朝日が木漏れ日となり、何ともいえないすがすがしさである。その中を流れる小さな清流・・・・・。

      
  一番近くのポイントにそっと竿を出す。そこではあたりはなかったものの、少し釣り上がったところで、待望のあたりがあった。水中から躍り出たのは20センチちょっとの、まぎれもない岩魚である。周囲の白樺林のせいでそう思うのか、どことなく上品な顔立ちをしていた。高原の爽やかさを身にまとったかのような岩魚であった。次に小さな落ち込みに仕掛けを投入した瞬間、水面が盛り上がり、一気にバシャッと音がしてエサに飛びついた奴がいた。まるで、水面を割って飛び上がったサメが上から押さえ込むかのような動きであった。抜きあげてみると、28センチほどもある岩魚である。今度の奴は大きなツラで、いかつい顔つきをしていた。

     
 とりあえず朝食の食材を確保し、岩魚汁や塩焼きにした。卵を持ったものが2匹有り、塩漬けにしたが珍味を好む者がその場で平らげてしまった。


  キャンプ場のすぐ側を流れる川で岩魚釣りができるなんて、これほど恵まれた環境は少ないのではないか? 源流域まで行かなければお目にかかれない岩魚を、白樺林の中で釣る。なにか、高級感のあふれる釣りをした気分で、これほど優雅な釣りをしたことは、後にも先にもなかったことである。是非とももう一度、ここでキャンプをしたいものである。よかったら皆さんもどうぞ

 



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