だから釣りはやめられない!




 先日友人のI氏から釣りのお誘いがあった。今年は何かと用事があって釣りに行けずにいたが、たまたまその日は完全にあいていたので、すぐにその場で行くことに決定した。 本当ならホームグラウンドの九頭竜川に行きたいところだが、遠いところだし、折角行くのならせめて一泊二日の行程でないと満足な釣りは出来ない。ところがI氏も私もそこまでの時間的余裕がないので、隣県の千代川に決定する。


 午前3時にI氏と待ち合わせる。そもそもI氏というのは大学の同級生なのだが、渓流釣りに関しては師匠格にあたる。はじめて渓流釣りに誘われ、手ほどきを受けたのは岡山の某源流であるが、薮をかきわけながら短い仕掛けでそっと手つかずの源流に竿を出すスタイルにはまってしまい、私にとっては「渓流釣り=源流釣り」というのが当たり前になり、以後ずっとそのスタイルで各地を釣り歩いた。今や私は毛針釣りにも手を染めているが、今回はその師匠との釣りなので、私たち本来のスタイルで源流釣りを楽しむことにする。


 ところで「師匠」とはいっても、もともとは同級生である。私生活をはじめ釣りにおいても上下の隔てはない。というよりも、生意気な弟子である私は、いつも勝負を仕掛けている。やれどっちが数多く釣っただとか、どっちの方が型がいいとか、いつもそんなことを、清冽な水音を汚しながらわめきあっている。もちろん今回も同様である。


 最初に断っておくが、今回の釣りは、おそらく一生の思い出になるものではないだろうか・・・・。それほど強烈なものであった。 なにか人生そのものを表しているかのような、そんな釣行だった。


 まず天候だが、よりによって台風1号が日本に接近するという、例年には考えられない状況の中での釣りとなった。出発前はどれだけやめとこうかと思ったほどのどしゃ降りで、何度も携帯で連絡を取り合ったのだが、お互い久々の釣行である。それと鳥取県東部の予報は思ったほど降水量が多くないので、それに一縷の望みを託して強行する。


 そして現地に着いたとき、雨はしょぼしょぼと大降りではないものの、しっかり降り注いでいた。ところがである。なぜか二人とも、合羽もウインドウブレーカーも忘れてきたのだ。確かにザックに入れたはずなのに、無い。気があうと言うべきか、似たもの同士と言うべきか・・・・。 なぜか我々二人の行動にはこんなことがちょくちょくあるのだ。


 仕方がないので、上着は無しで山道を沢へと下り、釣り場へと向かう。折からの雨で道はぬかるんでいる。そして昨年の記録的大雪のせいで、あちこち道は崩壊している。すべるすべる・・・。いきなりドッス〜ンとやってしまった。その際左手を着いたのだが、時計のベルトがゆがんでしまい、止まらなくなってしまった。なんともさい先の悪いスタートである。今日の釣行に不安がよぎる。実はそれは現実のものとなるのだが・・・。


 そしてやっと釣り始める。最初はポツンポツンとした感じで釣れ、キープしたのは私が1匹、I氏が2匹だった。その後、急に私は釣れなくなる。全くアタリすらないのだ。どうもおかしい、魚がいないのかと思ったりもしたがI氏は順調に釣っている。それもそこそこ型のいいのを。だから先行者がいるとか、魚がいないというのではなさそうである。そうこうしているうちに、この川の一番の大場所にやってきた。実は昨年、ここで尺物のイワナを釣っている。ここで一発大物を期待して竿を出す。するといきなりガガーンと竿に衝撃が走る。とっさにあわせたが、なんとすっぽ抜けてしまって、完全な空振りである。横にいたI氏には見えたそうだが、かなりの大物が食らいつきにきたそうである。慌ててもう一度竿を出すが、それっきりパッタリとエサに食い付こうとする魚はいなかった・・・。 「下手クソ! 何すんねん!こんなええ場所荒らしやがって!」とI氏にけなされる。たしかにその通りであるが・・・・くそっ!


 その場所をあきらめ、さらに滝の上流を目指す。そのためには滝の横をぐるっと巻かなければならない。ここも完全に雨と雪とにあらわれて、岩盤が露出している。つまりすべってすべって、なかなか登れないのである。I氏と二人だからなんとか登れたものの、単独釣行ならきっと諦めてただろうな・・・。ゼーゼーいいながら何とか滝の上に出る。そこから次の滝壺までは、穏やかな瀬が続く。


 ところがまたまた、釣れない地獄が始まった。ここぞというポイントで粘って竿を出すのだが、いっこうにアタリも無い。ここにいないはずはないんだがなぁ、と思いながら次のポイントへ移動する。ところがI氏が、「あれっ、そこにおらんかったか? ワシが試しにやったろ。」と竿を出したのだ。まあ、あれだけワシが粘って釣れへんのやから、絶対におらへんで、と内心思ってたのだが、なんとそこからバシャッと水しぶきを上げて、鮮やかなオレンジ色の腹をしたイワナが躍り出たのである。「おいっ、こんなんおったで!」と得意満面で見せにきよった! ある知り合いが言っていたが、人の後から釣った1本の魚は5本の値打ちがあるらしい。というのはつまり、5倍の喜びがあるということだろう。かなり屈折した喜びかとは思うが、逆に釣り残して釣られた方は、5倍どころか10本釣り落とした程の悔しさが残る。このくそったれ!


 だが悪いことは重なるものである。その次のポイントでもまったく同じことが起こったのだ。2度も続くと悔しさにとどまらず、自信喪失につながってくる。だが、まだそれで終わりではなかった・・・・。次のポイントで会心のアタリがあり、結構いい型のイワナがかかったのだが、ポチャンと釣り落としてしまった。地団駄踏んで悔しがり、もしかしたらもう一度食い付くかと思って、同じポイントに竿を出す。でもあそこまで飛び出した魚が2度と食い付くはずもなく、あとは静寂のままである。「オマエ、下手やなあ!」とI氏。ここまでくるとだんだん憎らしくなってくる。ビクにはもうすでに2桁の魚がおさまっているらしい。ワシは2本だけ・・・。とどめはなんと、なにげなくそのポイントに竿を出したI氏のエサに食い付いたのだ。こんなことってあるんかいな!と信じられない気持ちだった・・・・。そしてI氏が手にしていたのは、25センチほどの良型のイワナだった・・・・・。

まだ雪の残る渓



 あまりの寒さと自信喪失のため、もうやめじゃ、ということで、そこから引き返す。なんともまあ、むなしい気持ちである。 何が悪かったんだろうと考えてみるが、特に思い当たる節もない。まあ長い人生、こんなこともあるさと自分自身を慰めた。そういえば小学生の頃、友達にはフナやカワムツなどが釣れているのに、私には1匹も釣れなかったことがあったことを思い出した。そのとき親爺は「オマエ、竿をまたがんかったか? 竿をまたいだら釣れへんのや。」と教えてくれた。まあ何の科学的根拠もない迷信だが、そのときは「ああそれが原因なんや」と信じたものだった。そんなことを考えながら岩場を下っていたら、みごと尻餅をついて滑り落ちてしまった・・・・。


 そして先ほど釣り落とした大場所へ戻ってきたが、どうもこのままでは気持ちがおさまらない。ラストチャンスとばかりにもう一度そこへ竿を出す。しばらく粘っていたところ、ゴツンとしたアタリ!しっかりとあわせて針掛かりさせて引き抜いた。25センチもあるイワナだ。本日最長寸の一匹である。あ〜、なんとかこの1匹で心のモヤモヤが晴れた。まあこれで今日の釣りは良しとしよう。


 腹を出してさあ帰ろうと歩き出したとき、ふと足下に埋もれている竿を発見した。思わず拾い上げてしげしげと眺めたが、4.5Mの韓国製の渓流竿であった。はっきり言ってそんなたいしたものではない。安物の竿である。まあ子供用の竿にちょうどいいか、と思ってもらっておくことにした。ということで、本日の釣果は25センチを頭に3本のイワナと渓流竿であった・・・・・。


 沢からあがり、山道を車へとへ向かう。途中、いつも通過するだけの某滝の手前を見下ろすと、ここからその沢へは容易に下りられそうだったので、まだ時間も早いしちょっと寄り道しようかということになった。ところがここでもまた心にモヤモヤが生じることになってしまった。やめときゃいいのにね・・・・。

(某)滝



 まず沢に降り立ったところで右と左のポイントに別れて、それぞれ竿を出す。私のポイントは、誰が見てもどう考えても、あの障害物となっている木の陰と、岩の陰である。そこを重点的に攻めた。だがまったく生物の反応はない。あの手この手でかなり粘ってみた。今日はこのパターンで何度悔しい思いをしているかわからないので、また同じことをしでかしたらホンマのアホである。というわけで、普段の倍以上の時間と丁寧さで攻める。そして絶対にここにはいないという確信を持って次に移動しようとしてたらI氏がやってきて、一度ワシがやったろ!ということで竿を出した。そう何度も同じことが起こるはずはない。特にこの場所ではこれを予測して丹念すぎるぐらいじっくりとさぐっているのだから、絶対にあり得ないと確信していた。もちろんI氏も私と同じポイントを狙っている。やはり誰がみてもいるとすればそこだろうと思うところだ。ただ「いるとすれば、」であって絶対にいない・・・はずだ。だが、またそこには良型のイワナがいたのであった。 あ〜あ、ホンマのアホになってしまった。


 もうこうなってしまったら、テクニックや理屈などではない。今日の私はそういう運命なんだろう。もうそう割り切るしか仕方がない。過去最悪の釣行になってしまった・・・・・。


 ということで、沢からあがる直前の淵で、本日最後の竿を出すことにする。ところがである。出そうとした瞬間に仕掛けが枝に絡まり切れてしまった。仕方がないのでセットする。ところがホンマに今日は最悪である。なおしたばかりの仕掛けがまたまたひっかかってしまい、またまたちぎれてしまった。おまけにイライラしてたのが原因か、竿の扱いが荒っぽくなっていたのか、竿が固着してしまってきっちりと収まらないのだ。 これでもう完全に意欲喪失である。「お〜い、I氏。オマエこの場所で釣ってみ!わしゃ、もうやる気無くした。」といって譲ってやった。I氏は喜んで竿を出す。ところが今度という今度は、そう同じことは続かなかった。しばらく粘っていたが、「あかん、ここにはおらん!」といって次のポイントへ移動した。 ただ最後にちらっと、「ここはかなり深いなあ。長い仕掛けやったらええかもな。」と言って次のポイントへ去っていった。


 私としてはもうやる気が失せているし、竿もこんな状態である。荷物をまとめて帰り支度をしかけたのだが、どうも気になるので、ふと先ほどの拾った竿に仕掛けをつけてみた。それも私の仕掛け入れの中に、なぜか入っていた海釣り用の仕掛けである。ハリス0.8号2mつきのチヌ針である。もうどうでもよく、繊細な仕掛けを作る気もない。そのまま拾った竿の先に仕掛けを結びつけて、エサをさして放り込む。 どうせあいつが粘った後やから、まあ釣れへんやろなあ、そのうえ今日のワシは神さんに見放されとるからなあ、となかばヤケバチな気持ちで、ヤケクソ的な仕掛けを放り込んだのだが、なにか押さえ込むような重みを感じた。「ありゃ、根掛かりや。」と思った瞬間、引くと言うより押さえつけるかのような重量感のある動きが感じられた。「こりゃ、魚や!」と胸をドキドキさせながら、慎重にやりとりする。姿を現したのは黒い巨大な魚体である。何としてでもこいつを取り込まねば、と引き上げる場所を選び、抜きあげた。見るからに迫力ある顔をした大イワナである。思わず身体がガクガクと震えてしまった・・・・・。

  なんと 30  cm !!
              尺物を手に ・・・・・。



 計測すると30センチちょうどあった。つまり尺物である。しげしげと穴のあくほどその大イワナを眺めながら考えた。

 思えば今日は釣り人生最悪と言ってもいいほどの、屈辱的な一日だった。乏しい釣果はもちろん、崖ではこけるし、大物を釣り落とすし、さんざん竿抜けをつくって後から来たI氏にに釣られるという悔しさをとことん感じさせられたし、おまけに竿も使い物にならなくなったし・・・・・・。散々であった。


 だが、たまたま拾った韓国製の名も無きメーカーの見栄えのしない安物竿で、尺イワナを釣るとは・・・・・。人生とはこんなものだろうか。やはり渓は、人間を磨く道場なのかもしれない。そして釣りはやめられない・・・・。



 ところで・・・・。 15本の唐揚げサイズのイワナ・アマゴと 1本の「尺岩魚」 
 この勝負、私の勝ち!!   で、いいかな?(笑)       

(何が人間を磨く道場や! まだまだ修行が足りん! と言われそう・・・。 はい、もっといっぱい釣りして修行しま〜す!・笑)

                                            釣行日   2006.5.20

 

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