山女魚(ヤマメ)と山女(ヤマメ・・・やまおんな)




 山女魚というのはもちろんサケ科の魚で、渓流釣りでは人気ナンバーワンのターゲットである。その美しさやその釣趣、また食べての美味しさに魅せられ、私はかつてのハンドルネーム「KAO」から「山女魚」に変更した。

 山女というのも表記が違うだけで、もちろんその魚である。だがこれを「やまおんな」と読むと、意味は全く変わってくる。


 最近それまでは男性だけの領域とされていた世界に、どんどん女性が進出している。別に女性が劣っているとか女性にはできないとか言って差別するつもりは毛頭ないが、「えっ、ホンマに!?」と思うこともよくある。


 先日、職場の同僚から「Nさんが川釣りに興味があって、ぜひ経験してみたい」と言っていると聞いた。それなら私に相談するのが一番だろうとその同僚は答えたらしいが、ひょんなことからそれが現実になった。

 私は事前にいくつか確認しておいたのだが、「腰までの長靴はいて、かっこわるいで〜。」とか、「エサの虫は気持ち悪いで〜。そしてその虫に針をブチュって刺すんやで!」とか、「渓流釣りは汗と冷えと筋肉痛がつきものなんやで〜、つらいで〜!」と、さんざん脅しではないが、渓流釣りの本質を伝えておいた。

 私がしているのは、かっこいい英国紳士のフライフィッシングや、今でこそ廃れた感はあるものの一世を風靡したバス釣りとは違う、「どん百姓釣り(開高健いわく)である。別に卑下しているつもりはないが、若い女性が決して好みはしないだろうというのはよくわかっている。 だがそこまで言った上で「よろしくお願いします!」と言われたら、もう連れて行くしかない。私の人生において初の経験となる、女性同伴の渓流釣りである。


 朝6時に待ち合わせて、中国山脈のとある釣り場へ向かう。高速道路は順調だが、近づくにつれてが降り出した。もう3月27日である。本来ならチラホラと桜が咲き出してもいい頃なのに、今年はほんとに雪が多い。積雪があるのは仕方がないにしても、まさかさらに雪が積もるとは想定してしなかった。なんとなく嫌な予感がする。でもまあそのときは、温泉と観光に切り替えるか・・・・。


 なんとか釣り場の近くまでたどり着いた。本当はもっと先まで車を進めたいのだが、この積雪ではいかんともしがたいので、道ばたに車を停め、長靴(ウェーダー)等を装備して、雪中行軍をする。

 今回の同伴者であるNさんは、非常に激しくスポーツをされてきた人で、年齢もまだ20台前半である。初めての体験ながら、順調に雪道を踏みしめながら進んでいる。


 本来ならもっと上流域から竿を出した方が釣れる可能性は高いのだが、あまりに遠くまで雪道を歩くのもつらいので、やや下手から釣りを始めた。あたりは一面の雪・・・・。三月下旬とは思われない景色である。雪はやんだものの、木に積もった雪がときおりバサっと落ちてきて、頭から雪をかぶることもしばしばである。そんな中で竿を出した。


 案の定、釣れない。一通り渓流釣りのイロハを教えたうえで実際に釣ってみるが、まったくアタリすらない。大漁でなくてもいいが、せめて一匹は釣らせてあげたいし、私自身も釣らなければ面目丸つぶれである。だがアタリは全くなく、時は無情に過ぎていく・・・・。

初めての渓流釣り。 周りは雪ばかり・・・。

わっ! ムシを刺してる!



 そのうちやっと、私が今回釣り場に定めていたポイントにたどり着いた。まあここまでは準備体操である。このあたりからイワナとアマゴの混成域が終わり、ここからが目的のイワナ域である。別にアマゴよりイワナを上と見ているわけではないが、日本で最も標高の高いところに棲息する神の魚だとさんざん吹き込んでいたので、彼女はやはりイワナを特別視しているようだ。だからこれが釣れたら最高の思い出になるだろう。ということで、ここで気合いを入れ直して竿を出す。


 まずは今回の一番のポイントをレクチャーする。実はここで、私が去年、一番の良型を釣り落としている。あの流れのこのあたりに・・・と指示した上で竿を出してもらう。 するとやはり大物のポイントである。そばで見ていても、見るからに大物がきたのがわかるぐらいに、ググッと竿が曲がった。だがNさんは一瞬、体が固まってしまい、次の瞬間、むなしく竿が空を切った。


 だがアタリは確実に経験してもらえた。このときの心臓が飛び出しそうになる経験こそが、やはり最高の喜びである。まあまずは、それを経験してもらいたかったのである。

 そうなれば次は最初の一匹である。なんとか釣らせてやりたいものだ。先ほどの釣り落としで、Nさんは一層釣りたいという思いを強くしたようだ。どんどんとポイントを求めて釣り登っていく。

 ところがそのとき、私が雪に足を取られ、手をついたときになんと竿を折ってしまったのだ。なんたる不覚! これからが本番というときに・・・。相当なショックで、もうあきらめようかと思ったが、ここでやめたら私の釣り師の面目丸つぶれである。事実まだ一匹も釣っていない。萎えそうな気持ちをなんとか奮い立たせて、応急処置をして、ごまかしながら釣りを続ける。

 そしてついに一匹のイワナを手にした。わずか13センチほどの赤ちゃんである。でも初めて見るイワナなのでじっくり見せてあげた。「これが脂びれだよ。」などと、先輩面をして蘊蓄を傾ける。そして自分のポリシーは17センチ以下は放流なんだと格好つけて逃がしてやる。本心は、もしこれ以降釣れなかったらどうしよう・・・・、やっぱりせめて釣れた証拠にキープしようか・・・と、さんざん心の中で葛藤していた。これが本音のところだ(笑)。でも折れた竿でよく釣れたもんだ。


 その後Nさんを先行させ、私がそのあとの竿抜けを攻めるといったスタイルで続けたが、ついにやりました、23センチのアマゴをゲット! まだサビは残るものの、これなら立派な釣果である。竿が不安なので、慎重に抜きあげて魚籠におさめる。そしてNさんに見せてあげた。何枚か記念写真を撮ったが、Nさんは、「自分で釣った魚と写真を撮りたい。自分で釣ります!」ときっぱりと言い放った。やはりスポーツの世界で、常に勝負を意識して生きてきた人間である。気持ちのいい性格に感心しながら、なんとかして一匹を・・・と願う。

私の釣ったアマゴ。これで面目躍如・・・かな?



 そしてついに来ました、その瞬間が! たまたま私も小さなイワナを釣った直後だったが、Nさんにも釣れて、そのうえ木にひっかかった、という状況であった。 何があってもこの一匹だけは手に入れなければ! と、自分が釣ったイワナは雪の上に放り出して後回しにして、木に引っかかったイワナをはずし慎重に手づかみにした。

 釣れたのは20センチ弱の小振りではあったが、間違いなく天然のイワナである。これは生涯、Nさんの心の中に流れる川に生き続けるに違いない第1号である。やったね! わがことのように嬉しく感じた・・・・・。 気をよくしたNさんは、その後さらに20センチを超えるイワナを追加した。


 1時頃、納竿とする。自分で釣った魚を食べるということに憧れてたようなので、初心者に見せるとショックかなとは思いながらも、ハラワタとエラをとるところを見せた。やはり渓流釣りをするからには、綺麗なところだけを見せるのではなく、AからZまですべてを見せた方がいいだろう・・・・。 だがそんな心配は無用あった。僕の釣った魚も含めて、帰ってから塩焼きにしたらめっちゃ美味しかった! とのことであった。満足してくれたようで、本人以上に嬉しくなった・・・。

イワナ第1号。 やったね!

第2号。 いい型でしょ!



 その後、温泉に浸かって冷えた体を温め、帰路につく。


 彼女はひょっとしたらこれがきっかけで、今後も渓流釣りをするかもしれない。山女(やまおんな)になるかも?私にしても女性と渓流釣りに行ったのは初めてである。「山女魚」のHPに「山女」のことが書けるとは・・・・・。もうすぐ50歳を迎えようとするオッサンが、ひとりニタニタと喜んでいる。気持ち悪ぅ〜〜〜〜(笑)


 またいつの日にか、「ツーリングクラブ男神」にも「女神」が降臨することもあるのだろうか・・・・・。過去にただ一度だけ愛する女性とツーリングしたことがあるが、あれが最初で最後かもしれない・・・・。


 なんていう、ほろ苦くたわいもないことを考えながら、雪上のお散歩に疲れた体をベッドに横たえた瞬間、爆睡していた。

                                                          (2011.3.29)





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