九頭竜川源流 釣行記

平家の落人伝説の川にて




 久々に本格的な釣りに出かけることができた。

 次男の出産以来、何かと制約が多くまともに釣りに行くことが出来なかった。3人の子供の喧噪と、鬼嫁の無言の圧力によって、僕一人が外で楽しむなんて事は、絶対に許されるはずがなかった・・・・・。

  そんな矢先、悪友から誘いがあった。福井県へ釣りにいかへんか、と。鬼嫁に頼み込んだ結果、やっとの事でお許しをいただき、晴れて数ヶ月ぶりに解放されたのであった。

 行き先は福井県の九頭竜川源流である。小さい頃から何となくこの川の名前には憧れており、親しみを持っている。なぜかはわからないが、どこか人の記憶に残るネームである。その源流の一つの支流に、平家の落人伝説にまつわるところがある。詳しくは知らないが、四国の祖谷渓と同様、平家の落人が細々と住み着いていたところらしい。今は民家も何も残ってはいないが・・・。その川にはそれこそ、その落人と同様、細々と生息しているイワナがいる。以前に何度か訪れたことがあったが、かなりいい釣りをさせてもらった記憶がある。今回も期待に胸がふくらんでいた。

 今回は4月22日の日曜日に釣行した。もちろん21日に出発して現地に到着してから、夜明けまで仮眠してそして沢を釣り上がるのである。ところが前日の21日には、偶然ではあるが、今回釣行するメンバーの職場がすべて歓送迎会を行っていた。当然終わるのは9時頃になるし、当然アルコールも入る。出発は遅くなる上、運転手の交代要員も少なくなる。ふつうなら、ちょっとためらうのだろうが、今回同行したメンバーは、ちょっと普通ではないものばかりである

 一人は50代の、根っからの山男。若い頃は年末年始はずっと雪山にこもっており、今でもあちこちの山に出かけるという。また酒は底なしに強く、酒にまつわる武勇伝も多いと聞いている。もう一人も50代の、それも半端じゃない山男。世界の8000メートル級の山々を制覇している。もう一人が大学の同級生で元体操選手。いまはもう見る影もなく太っているが、やはり運動神経は並ではない。そしてその息子。今年中学校に入学し、柔道部に入ったそうである。こうやってみてくると、私なんかただのアウトドア好きなおっちゃんである。

 こんなメンバーだから、少々のことでは3度のメシより好きな釣りをあきらめるはずはない。結局、夜の11時に神戸を出発して、名神・北陸自動車道を乗り継ぎ、福井県へと向かう。何度かの休憩と、コンビニでの食糧確保で時間を使ったものの、午前4時ちょっと前に現地に到着し、仮眠をとる。それぞれシュラフにくるまりあっという間に寝息を立てている。このメンバーは誰もが、『いつでもどこでも眠れる』を、特技としているかのような気がした。


 たった1時間ほどの仮眠をとってから、夜明けからごそごそと準備をして釣りを開始する。渓流釣りは一人一河川。自分の川を下流からどんどん上っていきながら釣りをする。警戒心の強い魚だけに、人が入った川はもうその日は釣れない。だからそれぞれ場所を決めて、それぞれの支流へと入っていく。

 ここから先は完全に単独行動である。どんなことがあっても一人で対処しなければならない。その分、自分以外に、人工のものは何一つ無い世界に浸れるのである。四月下旬とはいえ、あたり一面雪景色であった。
 
  




 およそ1時間ほど釣り上ったが何の釣果もない。それどころかあたりさえない。それもそのはず、雪の上には真新しい足跡が無数にあるのだ。確かに今朝つけたものではないが、確実に昨日に入渓者があったことを物語っている。普通なら絶対にいるはずのポイントにも何の反応もない。昨日すべて釣り上げられてしまっているようだ。なおも上っていくと、はじめてちっちゃなイワナがつれたものの、こんなのを魚籠に入れるわけにはいかない。もちろん逃がしてやる。だが、それっきりまた釣れなくなってしまった。


 そうこうしているうちに、雪に足をとられてバランスを崩し、手をついてしまった。パンと音がして、愛用の竿が折れてしまったのである。普段は予備竿を持っているのだが、たまたまそれも前回に折ってしまっていて、使い物にならない。もうあきらめようかとも思ったが、せっかくここまできてリタイヤするのでは後悔が残る。というわけで、ビニールテープをぐるぐる巻きにして応急処置して釣りを再開する。えてしてそんなものなのかすぐにあたりがくる。折れた竿なので無理は出来ない。慎重に抜きあげ、雪の上に置いた。やっとキープサイズである。少々小さめだが、坊主逃れの一匹になるかもしれないので、魚籠に入れる。それからまたすぐに、あたりがあって、こんどは先ほどより一回り大きく、幅広のイワナが釣れた。竿が折れてから絶好調というのも、皮肉なものである。

 しばらくあたりが遠のいてから、小さな落ち込みのポイントに仕掛けを入れたときである。ぐぐっと押さえ込むような、決してシャープでは無い反応があった。あわせたところ、かなり強烈に抵抗する。これはいい型やぞ、と思って、竿をかばいながら抜きあげたら、25センチちょっとの型のいいイワナであった。




 これで満足である。これ1本釣れれば、納得できる。いい気分で釣りを続けたが、これからあとは、一切あたりもなかった・・・・。山の神さんが『もう充分じゃろう』といっているようにも思えたので、納竿とする。


 あとは元来た川を下っていきながら帰路に就くだけである。ところがこのとき左足の感触が変になった。腰まである長靴であるウェーダーの靴底のフェルトがとれてしまったのである。岩から岩へ飛び移ったり、川をジャブジャブ渡っていくためには一番肝心なものなのだが、それがとれてしまったのである。そうなったらもうつるつるで、よっぽど気をつけなければ滑ってこけてしまう。おまけに周りは雪だらけである。相当気をつけて歩いたがそれでも何度もこけそうになる。そのうち左足までもがとれてしまい、大変な状態になってしまった。こけてしまっては大変である。ゆっくりゆっくり岩場を降り、こけないように川底を踏みしめ、やっとのことで車までたどりつく。途中、突如カモシカが出現し、びっくりしてこけそうになったが・・・。


 足下をかばって沢を降りてきたため、普段は使わない筋肉を使ったのか、腰と足にきてしまって大変である。いま職場でこの文章を打っているが、(上司に見つかったらえらいこっちゃ)何度も背伸びをしたり、腰をさすったりしながら、やっとのことでここまでできあがった。 月曜日はくたびれた顔で、仕事をこなしている私であった・・・・・


結局この子が竿頭で、最長寸28センチを釣った。

山 男 ・・・・・・。




戻 る

 

トップに戻る


釣れても
釣れなくても

ツーリングクラブ
【男神】

酒 と 肴

  自転車に乗って

おっちゃんの独り言