虎穴に入らずんば虎子を得ず

熊エリアに入らずんば大岩魚を得ず(?)
                                        




 悪友の誘いがあり、福井県の九頭竜川源流にイワナ釣りに行くことになった。今回の釣行メンバーは私を含めて3人。いつものことだが夜に出発して現地で仮眠し、夜明けから釣り始める。今回は土曜の夜に出発し、日曜日の明け方から丸一日釣行し、そしてその日の夜には帰ってくるという強行軍である。いつものようにコンビニで食料とアルコールを買い込んで現地に到着したのだが、予想以上に寒くてビールを買ったことを後悔した。こんな夜はやはり熱燗で一杯やるに限る。だから冷たいビールでの宴会はそこそこに、シュラフに潜り込みブルーシートにくるまって眠る。いつものことで何の違和感もなくなってしまったが、テントも張らずブルーシートだけで地べたに寝る生活なんて、ちょっと普通では考えられない。慣れというのは本当に恐ろしいものだ。見上げると満天の星が、寒中の空でまばゆいばかりに煌めいていた。



 寒さでふと目を覚ましたのは4時過ぎであった。あたりはぼんやりと白みかけていた。しばらくのあいだ寝袋の中でモゾモゾとしたひと時を過ごすが、小用を足したくなったためにむくむくと起きだして、大自然の中で爽快に放出する。どうやら今日はいい天気になりそうだ。気持ちのいい釣りが出来そうだ。さて川の様子はどんなもんだろうと、流れに目をやると水量もバッチリである。一昨日の雨の影響もなさそうだ。今回は大漁が出来そうだとニンマリしながら川から目を上げてふと向かいを見ると、何やらフッと動いたような気がした。まだ完全に夜が明けきってないのではっきりとは見えないが、向こう岸の小高い斜面に大きな黒い物体が・・・。木の株のようにも見えるが何かなあと見つめていると、いきなりぬ〜〜〜っと動き出した。紛れも無いである。それもかなりでっかい奴だ。以前に子熊と遭遇したことはあるが、今回は紛れもない成獣である。きっとオス熊で、かなりの体格をしている。川を挟んではいるが、距離にして200メートルぐらいか。人間でも20秒程度で走れる距離である。思わず顔から血の気が引いていくのが自分でも分かった。

 「うわぁ〜、熊や! はよ起きろ!」と連れの2人に大声で叫ぶ。S氏は目を覚ましていたので、すぐに反応してブルーシートから飛び起き、逃げる体制を整えている。ところがI氏は呑気なのか鈍いのか、あるいは私の言うことを信じていないのか、寝ぼけ眼をこすりながらシートの中でモゾモゾしている。うーんどうしよう、もし熊がこっちに向かって突進してきたら・・・・。うん、その時はきっと寝ているこいつが先に喰われるだろうから、こいつが熊の胃袋に収まっている間に、我ら2人は車に駆け込んで逃げてしまえ・・・なんていう考えがふと頭をよぎる。人間の本質はやはりエゴイストにちがいない。

 熊の方も私の声に気がついたようで、こちらを振り向き、じっと我らの動きを見つめている。もはや一刻の猶予もない。I氏を見捨てて車に駆け込もうと思ったまさにその時、幸いにも熊のほうが向こうをむいてのっそりと動き出したのである。そして茂みの中へ入っていき、どこかへ行ってくれた。あ〜〜〜、助かった。

奥深い山々。山頂にはまだ雪が残る。




 それから心が落ち着くまでにはしばらく時間がかかったが、さてそろそろ釣り始めねばならない。先程の熊のことでなんとなく気が進まないが、ここまで来て今さら釣りをしないで帰るなんてことはできはしない。3人それぞれが、それぞれの支流に分かれて待ち合わせの時間だけを決めて釣り始める。ところが今回、私が入る支流が、さっき熊が進んでいった方向にあるのだ。

 昨日の夜にそれぞれが入る川を打合せていた。I氏は昨年私が34センチの大岩魚を釣って以来、何が何でも私を越えようとというオーラがにじみ出ている。私たちの仲間内では最も釣歴が長いのだが、彼は未だに尺物を釣ってはいない。34センチオーバーとまではいかなくても、せめて30センチの尺物を釣らないことには、どうも腹の虫が収まらないようである。だから今回も一番大物が出る確率が高そうな本流を釣ると言って、頑として譲る気配はない。
 S氏はとっても人柄が良い人で、交代してくれといえばしぶしぶながらも替わってはくれるだろうが、帰ったら熊よけの鈴を何が何でも絶対に買うというほど、私以上に先程の熊のことで肝を冷やしている様子である。だから無理矢理に替わってくれと言ったら一生恨まれそうである。ということで、意を決して私は熊エリアへ進入することにする。



 先程の川を渡り、支流へ入る。さっき熊がいた場所は、もう目と鼻の先である。必要以上に周りの様子を気にしながら、そっと竿を出す。するといきなりグッとくるアタリがあり、25センチの良型の岩魚が釣れる。3月の雪解けの頃はまだまだイワナの生息域に近づけなかったから、私はもっぱらアマゴ釣りを楽しんでいた。アマゴは美しいし繊細である。そして早春の味覚としても最高だ。
 
そして新緑の頃からイワナ釣りをすることにしている。このような山間部でも、もうほとんど雪はない。今シーズンの初イワナをこの九頭竜川源流で手にすることができた。やはりイワナはアマゴと違って荒々しい雰囲気を醸し出している。厳しい自然の中で生きていくには、やはりこういった激しさが不可欠なのだろう。殺生をして悪いが、ビクに収まってもらう。そして帰宅したら私の胃袋に収まってもらおう。

手前の岩の陰から竿を出す。

今シーズン第1号のイワナ


 一昔前と違って渓流釣りをする人の数も減り、あまり人が入った形跡もなく釣り荒れてはいない。そこそこのサイズが順調に竿を曲げてくれる。そしてあるポイントに辿り着いた。そこには太古の昔から生えているかのような、大きな木があった。

 たまたまではあるが、今回は大きな木のあるところの近くのポイントでは、8寸クラスのいい型のイワナが釣れている。だからあのポイントにもきっといい魚がいるに違いないと、勝手な期待をしてした。だから逆にその手前のポイントにはそんなに期待もしていなくて、本命のポイントに向かう前の前座ぐらいの気持ちで、ちょっと竿をだしてみた。ところがである。軽いアタリの後に強烈な引きが続き、28センチの大物が釣れたのである。さすがにいままでのサイズとはちょっと違う。嬉しい気持ちと同時に、ここにこのサイズがいるのなら、その奥のあの絶好のポイントには、これ以上の大物がいるに違いない、思わず胸が高鳴る。

 そしてその本命のポイントにそっと仕掛けを投入すると、予想通りの大物が食らいついた。取り込みに少々苦労したが、29センチの泣き尺イワナがおもいっきり竿を曲げてくれた。あとちょっとで「尺岩魚釣ったぞ〜!」と自慢できたのだが、残念ながら1センチ足りない。まあそう簡単に釣れるのなら値打ちはないか。なんせI氏などは30年近く釣歴があるのに、まだ一度も手にしたことはないのだから(笑)。釣る前のドキドキ感と釣った瞬間の胸の高鳴り、そして手にした時の満足感は、今回の釣行では一番記憶に残るものであった。ところがその次の何気ない流れの中に、これまた28センチが潜んでいたのだ。結果的に泣き尺3連発を達成した。

あの奥の落ち込みにはきっと大物が!


手前にいた28センチ

奥に潜んでいた泣き尺の29センチ!



 もちろん欲を言えばきりがないが、これ以上望めばバチが当たる。ひょっとしたら6尺ほどの真っ黒な大物に出くわすかもしれない。まあこの辺りが潮時だろうと思い、本日の釣りは終了とする。

 「虎穴に入らずんば虎子を得ず。」  「熊エリアに入らずんば大岩魚を得ず・・・・。」かな。

熊に襲われず、ほっとひといき・・・。アンパンを頬張る私。

                                      (2015.05.17)

 



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